「少し」の優しさ
高校2年生の時に、学校行事の1つとしてスイスに行きました。
初めての海外旅行、何なら初めての飛行機搭乗です。
課外研修という名目だったので、基本的にはスイスの大学や研究施設を周りました。
ただそれでも、多少はスイス観光しました。「グローバルな視点を身につける」というのも旅の目的の1つに設定されていましたから。
さて、スイスの公用語はドイツ語、フランス語など複数ありますが、大学や研究施設の中の公用語は基本的には英語です。だから、その中ではほとんど困ることはありませんでした。
しかし、ひとたび外に出ればそうはいきません。ガイドさん付きで団体行動しているとはいえ、ネイティブスピーカーでない同士で現地人と英語で話すタイミングはいくらでもあります。
ある日、昼食をスーパーのデリブュッフェでとることになりました。デリブュッフェとは好きなものを自分で取るなり注文するなりして会計をしてから席について食べる方式のことです。
量り売りの惣菜をとり、あとはメインをとるだけの状態になりました。パスタを注文する列に並びます。
自分の番になり、ダンケ、メルシーくらいしか知らない僕は、なんとか身振り手振りを交えミートソースのスパゲッティを注文しました。
しかし、係のおじさんはまだ何か言っています。正直何語で何を喋ってるのかはわかりませんでしたが、どうやらパスタの量を聞かれているようだということはわかりました。そしてどの量でも値段は一緒らしい。
ヨーロッパサイズの普通が日本だとなんと呼ばれるサイズになるのか、その頃にはわかっていたので僕は量を減らそうとしました。
「リトル」
僕はそう言って親指と人差し指でサインをしました。
おじさんは笑いました。そしてパスタを増やしました。たくさん。
僕はとりあえず愛想笑いをしました。
何故おじさんはパスタを増やしたのか。何故その笑顔に優しさが混じっていたのか。
よくわからないまま勢いに流されそのまま会計をしました。合点がいったのは席についた後でした。
「リトル」
その意味は、「少し」です。
僕は「少しの量にしてくれ」という意味でその語を使いましたが、あのおじさんには「少し増やしてくれ」と取れたのでしょう。
そしておじさんは、男子高校生である僕をみてきっとこう思ったのです。
「遠慮するな」と。
それこそが笑顔に優しさが混じっていた理由であり、やたらめったらパスタが増えた理由なのです。
日本ではあまり見かけない、スパイスのきいたゴロゴロした挽肉のミートソースがおじさんの計らいでパスタの量に合わせて増えてかかっています。
味は非常に美味しかったです。どんな想いで完食したかは想像に任せます。
この話を、海外コミュニケーション失敗談ととるか、外国人との心暖まるエピソードとるか、それは貴方の心の中に。